かつての日活映画スターや国民的歴史作家であった司馬遼太郎氏や 「8時だよ、全員集合」で有名なコメデイアンなどの著名人が 大動脈瘤で手術をしたとのテレビ報道がありましたが、 原因・症状・治療などについて知って自身や家族の健康管理に役立てましょう。
原因
動脈硬化、梅毒などの感染症、外傷により動脈壁(内膜)が弱くなり内側から破裂して痛みや出血を来たします。
動脈硬化の原因としては高血圧などがあり、他に遺伝性の疾患としてマルファン症候群があり長身のスポーツマンの突然死で有名です。
症状
胸部大動脈瘤が急に大きくなる時には背中を殴られたような激しい背部痛がでたり、 左反回神経が押さえられると声がかすれたり(弓部大動脈瘤)、 食道が押されると飲み込みにくくなったりしますが、 ゆっくり大きくなる時は破裂するまでは無症状で経過します。
腹部大動脈では拍動する大動脈に気付く方もあります。
破裂した場合の結果は不良で出血により突然死の原因にもなります。
全国で年間8万例の急死例の内の約1割が動脈瘤の破裂と推定されています。
大動脈瘤のタイプ
古典的には解離性大動脈瘤の世界的権威であった米国のDeBakey博士の発生部位による分類(1966) で3つの型がありTypeⅢは拡大部位の位置によりcとdに分けられます。
元川崎医大勝村達喜教授の分類(1979)は6型にさらに詳しく分類されています。
発生する場所でわかりやすく上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤ともいいます。
a:TypeⅠ, b:TypeⅡ, c~d:TypeⅢ
DeBakey らの分類の模式図(1966)
診断
他の病気に罹患したときに撮影した胸部レントゲン写真や胸部CTで偶然に発見されることが多く、 詳細には血管造影や造影CT、余裕があれば造影MRI(MRA)などの検査がありますが、 最も安価で迅速で簡便で確実な検査はCT検査と考えられます。
他に経食道心エコー検査もあります。
診断がつけば地域において心臓血管外科で専門スタッフの多い大病院への迅速な受診・転院が必要です。
次に当院での胸部写真で偶然発見された症例を1例提示致します。
巨大胸部大動脈瘤の1例(胸部正面レ線写真)
同症例の胸部CT(単純)の所見
治療
動脈瘤の直径が5cm以下であれば破裂するのを防止するために血圧を充分に下げたり、 高LDL血症、高中性脂肪血症、糖尿病があれば治療したりすれば動脈瘤の進展を防止できる可能性があります。
痛みがある症例や急速に拡大するものは破裂しやすく手術が必要です。
胸部大動脈の直径が6cm(正常値の2~2.5倍)、腹部大動脈の直径が5cmあれば手術治療が考慮されます。
手術
動脈瘤の部位を切除する「人工血管置換手術」がこれまでは一般的でしたが、 近年は「ステントグラフト内挿術」といって腰椎麻酔をして大腿の動脈からカテーテルを入れて人工血管を挿入し 動脈瘤の部位でグラフトを拡げ固定し内側から補強して動脈瘤の拡大を防止する、 患者さんにとって傷が小さくて負担の少ない手術が盛んです。
保険治療としても認められています。
上行大動脈、弓部大動脈瘤は心臓を止めて人工心肺で心臓や脳血流を維持しながら行います。
予防
動脈硬化の原因となる高血圧の治療がもっとも重要であり、 高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病を治療したり、喫煙習慣のある人は禁煙することが大切です。