前立腺とは

前立腺(ぜんりつせん)は膀胱の出口にあるクルミくらいの大きさの臓器で、その中を尿道が通っています。
男性だけにあり、精子の運動に関係する物質をつくっていると考えられています。 また、排尿の調節にも関係しており、尿を膀胱にためる(がまんする)のに役立っています。
しかし加齢とともに大きくなって排尿の邪魔をすることもあります(前立腺肥大症)。

前立腺がんの疫学

前立腺がんは高齢者に多いがんです。 ほとんどが50歳以上の方にでき、年齢が高くなるほど多くなります。
進行がゆっくりしていることが多く、なかには発生しても生涯問題を起こさないものもありますが、急に進行する悪性度の高いものもあります。
従来は欧米人に多く日本人には少ないものでしたが、最近では日本でも増加しており、年間約1万人の方が前立腺がんにより亡くなっています。 これには社会全体の高齢化だけでなく欧米型の食習慣・生活習慣も関係しているといわれています。
また近親者に前立腺がんがある方には前立腺がんが出来やすいことが分かっています。

前立腺がんの症状

前立腺がんは他のがんと同様、初期には症状はありません。
しかし進行して大きくなると、尿が出にくい・回数が多いなど排尿に関係した症状の原因になります。
また、前立腺の外に広がると色々な症状を引き起こしますが、中でも骨に転移を起こしやすく、腰や股関節の痛み、骨折、下半身の麻痺などを起こすことがあります。
さらに進行すると死亡の原因となることがあります。

前立腺がんの診断

前立腺がんの早期発見には血液の中のPSA(前立腺特異抗原)という物質を測定することが役に立ちます(PSA検査)。 これは1回の採血で済む簡単な検査です。
この値が上がって前立腺がんが疑われたら、診断を確定するために組織検査(生検)をします。 生検は前立腺に針を刺して組織を少し取り、これを顕微鏡で調べる検査です。
この結果がんが見つかったら、CTや骨シンチグラムで病気の広がりを調べ、それらの結果を参考にして最適な治療を考えます。

前立腺がんの治療

治療方法は病状・年齢・体力・他の病気の有無などによって異なります。
各治療法にはそれぞれ一長一短がありますので、何を重視するか(例えば完全に治すこと、通院で治療できる方法など)によって治療法が変わります。
担当の医師とよく相談して、納得の行く治療を受けていただくことが大切です。

初期のもの(前立腺の中だけにあるもの)には以下のような選択肢があり、手術などにより完全に治すことが可能です。

【手術 】

がん細胞を含めて前立腺を完全に取り除く治療です。 侵襲(体の負担)は大きいですが根治性(完全に治すこと)は最も高いと考えられています。 開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術などの方法があります。

【放射線治療】

放射線でがん細胞を死滅させる方法です。 短期間の入院や通院で可能ですが、直腸炎などの可能性があります。 外照射(通常の三次元照射、精密なIMRT)、内照射(ブラキセラピー;密封小線源永久埋め込み)などの方法があります。

【ホルモン治療】

男性ホルモンの作用を弱めてがん細胞の増殖を抑える方法です。 体に負担が少なく効果が大きいですが、代謝への影響(糖尿病、骨粗しょう症など)や経過中に効果が鈍る(再燃)可能性があります。 両側の睾丸を取り除く簡単な手術、定期的皮下注射などの方法があります。

進行したもの(前立腺の殻を破って広がっている、または転移を起こしているもの)にはホルモン治療・放射線治療・抗がん剤による化学療法を適宜組み合わせて行いますが、完全に治すことは難しいのが現状です。
もともと進行がゆっくりしていることが多いので、がんを完全に治す治療だけでなく、がんと付き合って行くようなおだやかな方法でうまくコントロールできることもあります。

PSA検査について

前立腺の早期がんのうち何割かは将来進行しないと言われていますが、多くのものは進行して行きます。
ところが、将来進行する早期がんとそうでないものを治療前に完全に見分けることはできないのが現状です。
ですから、PSA検査に始まる前立腺がんの早期発見・早期治療は多くの方にとっては有用ですが、結果として進行しにくいがんに対して受けなくてもよい検査や治療を受けることになる可能性も伴います。
このような事情をご理解の上でPSA検査を受けていただければと思います。