1.ヒトインフルエンザウィルスの種類

核タンパクのRNAの構造からA、B、Cの3型に分けられ、A型、B型が流行を起こす。

抗原

ウィルス粒子表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミラーゼ(NA)の2種類がある。
A型インフルエンザのHAには、H1、H2、H3の種類、NAにはN1、N2の種類、B型インフルエンザはHA、NAとも1種類だけである。

過去100年の大流行

A型のHA、NAは10~60年に1度突然変異を起こし、下表のように大流行(パンデミック)を起こす。

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2.新型インフルエンザの遺伝子と由来

ヒトインフルエンザウィルスには8種類の遺伝子があり、その役割と由来を下表に示す。

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新型インフルエンザ(N1H1)の粒子表面で免疫抗体と反応するHA、NAのスパイクが北米の豚由来のもので、 同じN1H1の人に感染するAソ連型と構造が異なるので、従来のワクチンが効かない。

3.新型インフルエンザ流行の経過

3月~4月上旬 メキシコで重症呼吸器疾患の集団発生
4月24日 アメリカ疾病対策センターが新型の豚由来インフルエンザA/H1N1ウィルスを同定
4月25日 アメリカ、ニュージーランド、スペイン、フランス、カナダ、イスラエルでメキシコから帰国した人から新型インフルエンザに罹患 WHOは「国際的な公衆衛生上の緊急事態」(フェーズ3)と認定
5月9日 カナダから帰国した高校生2名、男性教師1名が新型インフルエンザに感染
5月中旬 大阪府、兵庫県で海外渡航歴のない中高校生の間に新型インフルエンザ患者が発生、感染拡大
6月11日 WHOが「世界的大流行」(フェーズ6)を宣言
7月24日 国内感染者4986人
8月6日 世界の患者数177,457人、死亡者1,462人

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8月15日 沖縄県で国内で初の死亡者が出て、30日までに8人の死亡者
8月18日 プロ野球日本ハムの選手3人が感染。
8月19日 大相撲力士12人が感染
全国高校野球選手権大会出場の立正大淞南(島根)選手5人、PL学園高(大阪)選手1人が感染
8月20日 国立感染症研究所が「新型インフルエンザの流行状況」を発表。
定点観測の1医療機関当たり患者数が第30週(7月20日~26日)0.28人から第31週(7月27日~8月2日)0.56人、第32週(8月3日~9日)0.99人と増加。
さらに第34週(8月17日~25日)2.47人に急増している。
全国的な流行の指標は1.00人とされている。
都道府県別では第34週で沖縄46.31人と警報レベル(30人)を越え、流行が本格化している。
このほか2.0人以上は13都府県となっている。
8月26日 甲子園に応援に行った県立岐阜商業高校生96人、中京大中京高校生23人、 日本文理高校生2人などの感染があった。

4.今後の流行推移

南半球の温帯地域のほとんどの国々で新型インフルエンザが初冬に急速な患者の増加があり、 冬季が終わりに近づきつつある現在、減少傾向にあるが依然としてウィルスの伝播は続いて、 感染が余りなかった地域へ移行している。

日本では、従来インフルエンザは秋冬に流行するものであるが、今年は真夏でも広がっている。 流行開始の目安の定点1医療機関当り1.00人を越えているのは42都府県に及びすでに流行期に入っている。 現在、中高校生が新型インフルエンザの流行の中心となっていることを考慮すれば、 夏休み終了後の学校の再開をきっかけに新型インフルエンザの流行が増大することが十分予想される。 8月28日に労働厚生省発表は新型インフルエンザの今後の患者数を国民の20%(2500万人)が発症すると想定している。 ピークの時期は9月下旬から10月になると推定されている。 ほとんどの人が新型インフルエンザ抗体を持っていない状態なので流行の規模は予測以上に大きくなることが考えられる。

5.予防

新型インフルエンザワクチン対策として、ワクチン接種は有効である。 政府は必要な新型インフルエンザワクチンの量を5300万人分と見積っているが、 国産で製造できるワクチン量は3300~3800万人分で不足の1500~2000万人分を輸入で補おうとしている。 予想される流行のピークである10月まで国産ワクチンがどれだけ供給できるか、輸入ワクチンの有効性、 安全性をど のように担保するのかなど色々の問題を含んでいる。 また、限りあるワクチンをどのような優先順序で実施するのかも議論されている。

感染源は患者自体であるので、できるだけ患者との接触を避けることである。 飛抹予防対策として、患者、感染性者ともにマスクの着用とうがい、手洗の実施を心掛けることである。 特に、慢性肺疾患、心臓病、糖尿病、人工透析などの患者、妊婦などは感染すると重症になりやすいので、 重症化防止には早期受診、早期治療が大切である。

当病院においては、新型インフルエンザ患者と一般患者と接触しないように空間的、時間的に配慮して診療するようにしている。

文責:内科 森 忠繁