1. 新しい傷の治療が注目されているようですが?
創傷治療に関して8年くらい前より現 石巻第一病院「傷のセンター長 夏井睦(なついまこと)先生」の提唱する “湿潤療法”の治療法が効果をあげ、大変注目され各地の病院で実践されるようになり当院でも平成20年4月より実践開始しています。
2. どのような治療法ですか?。今までの治療法とどこが違うのですか?
《今まで常識とされていた怪我(けが)をすると消毒してガーゼを当てて、傷(きず)を乾かして痂皮(かさぶた)が出来て治す》という治療法が間違いであることが指摘され、 本来の身体にある怪我(けが)をしたら治そうとする力をそのまま利用し、治る力の邪魔をしないで手助けする という本来の治療法です。
“湿潤療法”といいいます。
3. 実際の治療法は?
擦過創いわゆる“すりきず”の時、まず外傷を受けられた患者さんが来院されますと、まず創の診察をします。 “すりきず”とは皮膚が欠損した状態です。
そして生食(生理的食塩水)で洗浄します。
強い痛みを伴ったり、泥、砂などの異物が存在する場合は局所麻酔をしてから、消毒した歯ブラシなどで徹底して洗浄します。
挫滅していたんで壊死になる可能性のある組織は切除します。
その際は若干出血を伴います。
このあとガーゼを直接あてるのが今までの治療法ですが、湿潤療法では被覆剤を使用します。
受傷日には主として止血作用のある“アルギン酸塩被覆剤”を貼付し、あと他の被覆剤かガーゼを当てて出血あるいはあふれる浸出液などを吸収させます。
その上にフィルムドレッシングを広めに当てて密閉します。
それで湿潤療法を“閉鎖療法”ともいいます。
4. 切った創など縫う必要があるのは?
裂けている場合は縫う(縫合)必要があります。
縫合しなくても創は治りますが治るのに時間がかかることがあり、また部位によっては緊張がかかって大きな瘢痕となることがあります。
縫合には局所麻酔が必ず必要です。
子供さんや皮膚の薄い老人ではテープで創を寄せて固定し経過をみることもあります。
頭部の創では出血が多いので止血するために縫合する必要があることがあります。
縫合した場合は抜糸が必要ですし、糸のあとかたは残ります。
5. ガーゼを使用してもいいのですか?
今までの治療法と違って直接創に当てるわけではありませんから、ひっつきはしません。
創に貼付したアルギン酸塩被覆剤は生食水で洗浄すれば組織を傷めることなく剥がれます。
6. 当日お風呂に入っていいのですか?
創をフィルムドレッシングで覆っていますのでシャワーは大丈夫ですが湯船の中に入るのはよくありません。
というのは湯船のお湯は消毒されていませんし、またドレッシングが剥がれることがありますから。
シャワーで多少は出血しますがにじむ程度なら翌日の受診で問題ないことがほとんどです。
7. 痛みは?
湿潤療法を行うと、創を乾燥させる今までの方法と比較して痛みの程度は軽く、次回に受診した際の包交も痛みが少なくてすみます。
8. その後の処置は?
受傷処置の翌日は受診してください。
創の状態を診察させていただきます。
出血および浸出液の程度によっていろんな被覆剤が発売されています。
浸出液の程度によって被覆剤の種類が変わってきますし、外来受診していただく日も変わってきますので受診した際に次回受診日を必ずお聞きください。
9. その後のお風呂は?
縫合した場合は48時間をすぎるとシャワーなど流水で洗うのは問題ありません。
例えば手術創などは3日目に開放創とする方法をこの頃取り入れている病院もあります。
擦り傷のときは時と場合によりますので受診時にお聞きください。
10. 創が痒いのですが?
フィルムドレッシングで皮膚がまけて痒みを伴うことがありますので痒みが出現したら早めに受診してください。
11. 創は濡らしてもいいのですか?
以前は濡らしたらいけないと言われていましたが創によっては水道水など流水であれば時期によっては問題ないことが多いので受診した際に相談してください。
12. 水道水で洗浄して大丈夫ですか?
水道水は水道法という法律で管理する自治体が塩素法で消毒しています。
すなわち水道水に塩素を注入して病原菌を殺菌しています。
しかしタンクでの貯水式の水道水を利用する場合は塩素の効果が薄れ、病原菌が増殖することがありますので生食水の方が安全です。
ですから骨折治療でプレートなどの異物が入っている場合や傷にポケットがある場合などは使用は避けた方がいいでしょう。
ただ多量に洗浄する場合、当院でも水道水を利用しますが、その後生食水での洗浄を追加しています。
例えば以前は手術の手洗いは滅菌水を使用していましたが、現在は厚生労働省の通達により水道水を使用しての手洗いが認められています。(当院は手術の際はまだ滅菌水を使用しています。)
13. 創の経過は?
創の程度によりますが、すりきずなどで皮膚が欠損状態であったのが上皮化されてくると浸出液が次第に少なくなり、創はピンク色の上皮で覆われてきます。
以前は痂皮(かさぶた)が形成されていましたが湿潤療法では痂皮は形成されずに治癒します。
14. 抜糸の時期は?
基本的には1週間ですが肘や膝など部位によっては抜糸後に創が開くことがあるので遅らせることがあります。
15. 化膿は?
異物が残っていると感染することがあります。
創の周りが赤くなり、痛み及び熱感を生じてきます。
そうしますと切開排膿しないといけないので受診してください。